✏️Orchestras don’t get record deals any more. The Grammys show a silver lining.
というわけで、今日は1日半かけて読んで、概要を意訳してみた…。
グラミー賞はクラシック音楽にふさわしくない?
これまで多くの人が、グラミー賞はクラシック音楽にふさわしくない、気まぐれな人気投票でしかない、と言ってきた。
問題の本質は、グラミー賞がコンサートホールで起こっていることを何も反映してこなかったことにある。
オーケストラシーズン(ホール)のプログラムはモーツァルトやベートーヴェンなど旧来のレパートリーが主体。一方、録音は現代の好みやトレンドをより反映している。
グラミー賞「最優秀オーケストラ・パフォーマンス部門」の受賞回数が多いのは、マーラー、バルトーク、ショスタコーヴィッチ、ストラヴィンスキー、ドビュッシー等だ。
CD販売量が減少し、メジャーレーベルの重要性が低下するにつれ、小さなレーベルやあまり知られてない作品の録音が増え、このホールと録音のギャップはますます広がった。
変化の兆し:ライヴ録音の増加
ところが、この状況にも変化の兆しがある。最近、ライヴのオーケストラ演奏がグラミー賞を受賞することが増えてきているのだ。
その背景には、最近のオーケストラの録音がほとんどライヴになり、しかもオーケストラ自身のレーベルからCDが出されることが増えたことがある。
レコーディングはオーケストラにとって欠かせないものになってきている。そして、録音は、前述のとおりスタンダードなプログラムよりも特徴のあるレパートリーをフィーチャーする傾向がある。
このことが、ゆっくりではあるが確実にオーケストラのレパートリーを広げつつある。
シアトル交響楽団の例
シアトル交響楽団の新しい音楽監督、Krishna Thiagarajan氏は「聴衆にあまり聴かれてないような作品を録音したい」と言う。
今回、自身のレーベルから 2つの録音がノミネートされている。20世紀のデンマークの作曲家 Carl Nielsen の2つの交響曲と、59歳のアメリカ人作曲家 Aaron Jay Kernis に委嘱したヴァイオリン協奏曲である。
(追記)後者の "KERNIS: VIOLIN CONCERTO" は「最優秀クラシック・インストゥルメンタル(ソロ)」「最優秀コンテンポラリー・クラシック・コンポジション」の両方にノミネートされ、ともにグラミー賞を獲得している。
変化するホールと聴衆
実はレパートリーだけでなく、聴衆も録音とホールとでは違っていた。コンサートには女性が多く、録音したものを買うのは男性中心だった。
ところが、メジャーレーベルがスタジオ録音をあまりしなくなり、オーケストラ自身でレコーディングをするようになった結果、この差は縮まりつつある。
さらに、最近ではオーケストラが自らのアーカイヴのために使う録音機材も、プロレベルの録音をリリースするのに十分なものになっている。
近い将来、ライヴ演奏を聴いた客が、ホールを出たあとに聴いたばかりの演奏をダウンロードするような時代が来るだろう。そうすると、ホールの聴衆と録音を聴く層がかなり重なりあってくる。
ライヴ録音の利点
オーケストラにとってライヴ録音には利点が多い。自分で制作までできるオーケストラは少数かもしれないが、何を録音するかは自ら選ぶことができる。
今回「最優秀オーケストラ・パフォーマンス部門」でノミネートされた5つの録音のうち、3つがオーケストラ自身のレーベル(Seattle、Pittsburgh、San Francisco)である。
あとの2つも、コンサートを録音した Naxos のアメリカ・クラシック音楽シリーズと、レーベルはメジャーの Deutsche Grammophon だが内容はオーケストラ自身がプロデュースしたライヴ録音だ。
ライヴ録音はオーケストラにとっても、より綿密な準備・練習、集中力、ほどよいプレッシャーなど良い影響をもたらす。
ナッシュビル交響楽団と Naxos
ナッシュビル交響楽団の音楽監督 Alan D. Valentine によると、Naxos が20年前に「未録音のアメリカ音楽に焦点を当てたシリーズ化」を持ちかけた最初のオーケストラの一つがナッシュビル交響楽団だったそうだ。
まず20世紀の作曲家 Howard Hanson や Charles Ives、そして存命中の作曲家 Joan Tower、Michael Daugherty、Jennifer Higdon などを録音し、これまでに13のグラミー賞を受賞している。
Valentine はこう付け加える。「現代アメリカ音楽へのコミットメントは、我々により若い層のより多様化した聴衆をもたらした。文句を言う人もいるが、ほとんどの人は声援を送ってくれる。」
レコーディングの影響
Naxos のアメリカ・クラシック音楽シリーズは、レコーディング業界がいかにオーケストラのレパートリーに影響を与えうるかのいい見本である。
これまでのリリースは450を超え、23のグラミー賞を勝ち取っている。また、米国の多くのオーケストラの変わった趣向のプログラム(レパートリー)も支援している。
オーケストラはグラミー賞のために録音しているわけではないことは確かだが、グラミー賞はお金と注目をもたらす。それが新しい音楽を録音するインセンティブになる。そして「最優秀コンテンポラリー・クラシック・コンポジション」部門の存在も大きい。
変化は緩やかに
残念ながら、レコーディングの支援なくしては、風変わりなプログラムのチケットを売ることは相変わらず難しい
例えば、Washington Metropolitan Philharmonic という小さなセミプロの地方オーケストラは女性作曲家特集を組んだが、売り上げはそれほど伸びたわけではなかった。
目新しいレパートリーをプログラムに入れるにはお金もかかる。スコアやパート譜を探しだし、高額な楽譜の購入やレンタルをする必要もある。
自らレコーディングや制作を行い、独自レーベルで20の録音を出し、John Luther Adams の “Become Ocean” と Henri Dutilleux の作品でグラミー賞を獲っているシアトル交響楽団と比べれば、まだまだの状況だ。
しかし、シアトル交響楽団の音楽監督、Krishna Thiagarajan氏はこう言っている。
「伝統的ではない出し物(レパートリー)の聴衆も次第に増えている。効果が出始めるには何年かかかるだろうが…。そして、グラミーという人気コンテストは実際その助けになるだろう」
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