ローラン・カバッソ(Laurent Cabasso、1961- )さんについては、フランスのピアニストで、フランスの音楽雑誌が実施したCDブラインドテストで、ディアベッリ変奏曲の第1位になったことと、昨年のショパンコンクールで優勝したチョ・ソンジンの師匠、というくらいしか情報がなかった。
私にしては珍しく、YouTubeでの事前チェックもしていない。演奏曲目の予習も、ディアベッリを1回聴いただけ。あまり先入観を持たずにいきなり聴いてみるのもいいかな、と思ったのだ。
会場は少し縦長だが、ピアノリサイタルにはちょうどいい感じの大きさ(256席)。床がフラットなので「発表会みたいな雰囲気…」とカミさんの感想。そういえば、お客さんの雰囲気もなんとなく温かみを感じた。日本では知名度が低いのか、ディアベッリという演目のせいか、残念ながら満席というわけではなかったが…。
前置きはこれくらいにして、演奏である。前半はフランス物。音がきれいなピアニストと聞いていたので期待が膨らむ。
期待が大きすぎたせいか、最初の2曲(ドビュッシーの『映像第一集』から「水の反映」「ラモーを讃えて」)は、音色も音楽も今ひとつピンとこない(フツーかな…?)。
と思っていたら、次の「運動」で目が覚めた。素晴らしいパッセージがピアノから流れ出てきた。音が見違えるように活き活きしてきた。カバッソさん、乗ってきたのかな…、これはいい ♪
ラヴェルの『鏡』もその流れで、私の好きなラヴェルの響きが続く。「道化師の朝の歌」よりも「鐘の谷」の方が好みの演奏。
そして、びっくりしたのが次のドビュッシーの「喜びの島」。何度か聴いたことがあるがそれほど好きな曲ではなかったのだが…。これが、カバッソさんの手にかかると、こんなにもダイナミックで魅力的な作品だったのかと、少し感動してしまった。
音楽作品はいい演奏者に出会うことで本当の傑作になっていくのだと思った。
そして、後半の「ディアベッリ変奏曲」、これは文句なく圧巻!
出だしから音楽が生きている。ピアノの音も素晴らしく「きれい」。ピアノの音ってこれだよね ♪ という感じ。
「音がきれい」というイメージは、そんなに大音量ではなく、どちらかというと高音の潤いのある響きを想像してしまう。が、カバッソさんの「音のきれいさ・魅力」はむしろ中低音のダイナミックで深みのある音色にある。
中低音の和音や速いパッセージの塊が心地よく響く。和音の響き、その厚みや彩りが音楽の流れに沿って絶妙に変化する。低音が気持ちよい重量感を持って弾む。その上に乗って、高音部のメロディーも光る。
ピアノを「弾く」って、音を「弾ませる」ことだったのかも…、なんて思いながら楽しんだ。
ディアベッリという作品が、変奏曲という枠組みを超えて、オーケストラを聴いているような、シンフォニックな音楽に思える。ベートーヴェンがイメージしていた音楽が目の前に再現されているような…。
去年聴いた内田光子さんのディアベッリもすごく良かったのだが、細腕の内田光子さんが頑張ってディアベッリを征服した感じだったような気がする(今思うと…)。もちろん名演だった。
カバッソさんの方は、もちろんカバッソさんの演奏が光っているのだが、むしろベートーヴェンが見える感じ。…というか、ディアベッリ変奏曲の、音楽としての素晴らしさをより感じられる演奏だった。
ディアベッリという1時間近い曲が、音楽を楽しんでいるうちにあっという間に終わってしまった、という感じ。むしろもっと聴いていたい、という気持ちにさせてくれた。いや〜よかった ♪
アンコールは3曲も弾いてくれた。最初の曲は「シューベルトの…?」。あとでホワイトボードを見て分かったのだが「ディアベッリ変奏曲」。そういえば、ディアベッリさんは数十人の作曲家に変奏曲を依頼したのだった…。
このシューベルトは、最初に私がイメージしていた「きれいな音」そのものだ。短い曲だがいい感じの曲。
2曲目の「シュット:ウィーンの森の物語によるパラフレーズ」は楽しくて面白い。カバッソさんの音色のパレットが存分に活きる。3曲目「楽興の時 第3番」、こんな風に弾けたらどんなにいいか…。
…ということで、昨日は本当に大満足なリサイタルでした。カバッソさん、ねもねも舎のみなさん、ありがとうございました ♪
また、いいピアニストを呼んでください…(^^;)。
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