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2020年11月30日月曜日

Steingraeber というピアノの凄い仕掛け:Sordino、Mozart-Rail ♪

昨日の記事でちょっとご紹介した "The World of Piano Competitions" の最新号(下記ページからダウンロード可)に、"Steingraeber anniversary" という記事があった。

✏️The World of Piano Competitions – issue 2 2020

Steingraeber(シュタイングレーバー)というピアノメーカーが 200周年を迎えるということで、その間の「イノベーション」が紹介してある。

ピアノのブランド名としては初めて聞く名前なので、ざっと読んでみたのだが、他のピアノにはない仕掛けが組み込まれていて、なかなか興味深い内容だった ♪




正式な会社名は "Steingraeber & Söhne"(シュタイングレーバー&ゼーネ)。ドイツのバイロイト(Bayreuth)にある老舗(1820年創業)のピアノメーカーである。

ワーグナー家やバイロイト音楽祭(1876年〜)にピアノを供給したり、ワーグナーの注文で「パルジファル・ベル」を製作した会社でもある。

現在でも手作りにこだわり、年間生産量はアップライト 40台、グランドピアノ 17台ほどである。これまでに累計 4万台のピアノを製造している。(Wikipediaより)

詳しくは公式サイト:✏️Steingraeber & Söhne(なぜか日本語対応してる ♪)


ちょっと驚いたのは、シュタイングレーバー独自の仕掛けがいくつかあること。グランドピアノには "Sordino"、"Mozart-Rail" と呼ばれる構造が組み込まれている。


"Sordino"(ソルディーノ)は音楽用語としても使われるもので、「弱音器」「ミュート」などを意味する。"con sordino" で「弱音器をつけて、弱音ペダルを踏んで」となる。

これは元々 Graf や Érard のフォルテピアノに組み込まれていた弱音装置で、弦とハンマーの間にフェルトを滑り込ませる(中央ペダルで操作する)ことで音色を変えるものだ。




ピアニストの Jura Margulis(ユーラ・マルグリス)の提案で組み込まれたもので、彼のサイトにも詳しい説明(↓)がある。名前も "Margulis Sordino Pedal" となっている。



マルグリスによると、シューベルトが "ppp" と書いた箇所は Sordino ペダルを使うべきで、シューベルトのピアノ曲には 37ヶ所あるらしい。また、シューベルトはその音色を "voice from the hereafter"(あの世からの音)と表現しているそうだ。

天上から降ってくるような美しくもかそけき音…という感じだろうか? 一度、生で聴いてみたいものだと思う ♪


もう一つが "Mozart-Rail" と呼ばれるもの。これは、ピアノの下についているレバーを操作して、何と!鍵盤の "key depth" つまりキーを押下する深さを変える仕組みである。

"key depth" はモーツァルトの時代には 5mm 程度であったが、現代ピアノでは 10mm ほどにまで変化してきている。

"Mozart-Rail" は通常の 10mm を 8mm にまで浅くすることができる。ハンマーと弦の間隔も 36mm に近づくようだ。

その結果、音はフォルテピアノに近くなる(small & silvery)とのこと。音が小さくなって "pppp" をより小さく、しかもトリルなどの反復が速くできるようになる。

この開発にはピアニストのマルティン・シュタットフェルト(Martin Stadtfeld)が関係しているようだ。


この記事には、あと響板をスピーカのように鳴らす "transducer" のことも書いてあるのだが、これは他のメーカーにもあるので割愛する。

それよりも、Steingraeber & Söhne サイトの記事やカタログを見ていて、面白いことを見つけた。それは響板の形が違うことだ。




上の絵は、シュタイングレーバーとスタインウェイのコンサートグランドの平面図であるが、明らかに形が異なっている。

シュタイングレーバーの特徴としては、高音部の響板が狭くなっていて、後ろの部分が角ばっている。全体的な幅も少し広いように見える。

高音部の響板については「短い高音の弦の比率に戻した」ことにより、「弱く弾いても音が残り、余韻が響き続ける」という説明がカタログに書いてある。

響板だけではなく、さまざまな工夫(アクティブ・ヒッチピン、フレーム構造など)により、クリアで豊かな音を実現しているとのこと。

白鍵には「象牙に代わる鉱物」が使われていて、20%重くなっており「心地よいタッチ」を実現している。また、特注で「マンモスの牙」…(^^;)!…の白鍵も提供できるそうだ ♪

コンサートグランドの E-272 モデルに関しては、「ル・モンド・ドゥ・ラ・ミュジーク誌」によるテストの結果、「バッハやモーツァルト、ベートーヴェンの演奏に、今日、これ以上の楽器を見つけることは困難である」と評価されたとのこと。

参考:✏️ブランド解説/ steingraeber(ピアノプラザ群馬)


ますます、このピアノの音を聴いてみたくなった…(^^)♪

日本のホールにないか探してみたが、今のところなさそうだ。唯一見つけたのが代々木公園前にある Pachetart  というサロン(↓)で、A-170 という一番小さな「サロン用グランドピアノ」が置いてあり、ミニリサイタルなどで使えるそうだ。



おまけ。Steingraeber & Söhne の本社は "Steingraeber Haus" というなかなか歴史を感じさせるいい雰囲気の建物のようだ(↓)。ちょっと訪れてみたい感じ…(^^)♪





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2 件のコメント:

  1. キットアームストロングさんのバイロイトでのリサイタルのビデオを見ました。まさにこのグランドピアノを弾いていました。少しひなびた奥行きのある響きでした。
    プログラムがワーグナー、リスト、モーツァルトなのも納得できました。

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  2. そうなんですね ♪ キット・アームストロングは私のお気に入りピアニストの一人なので、動画を探して聴いてみたいと思います。 情報、ありがとうございました ♪

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