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2014年8月5日火曜日

「ピアニストたちの祝祭」:興味深い話がたくさん

久しぶりに青柳いづみこさんの本を読んだ。今年5月に出たばかりの本である。

『ピアニストたちの祝祭』(青柳いづみこ)




副題に「唯一無二の時間を求めて」とある。帯に「華やかなステージの内と外から、ピアニストがとらえた、渾身の音楽祭見聞録。」という説明があるとおり、実際にいづみこさんが音楽祭で演奏を聴き、取材し、あるいは自ら参加した記録が、ピアニストの視点から語られる。なかなか興味深い読み物である。

内容はこんな感じ。

【目次】
  • ポリーニ―完全無欠のピアニストが歌を歌うまで
  • 唯一無二の時間を求めて―第五回別府アルゲリッチ音楽祭見聞録
  • 内田光子―持続のエクスタシー
  • 闘う音楽家―ダニエル・バレンボイム
  • 女性作曲家音楽祭二〇〇七―レポート
  • アルカン生誕二〇〇年記念コンサート―レポート
  • 進化するフジ子ヘミング
  • ラ・フォル・ジュルネ「熱狂の日」音楽祭二〇〇七―レポート
  • ラ・フォル・ジュルネに出演してみたら
  • サイトウ・キネン・フェスティバル―ジャズ勉強会
  • 日本人がショパン・コンクールで優勝できない理由(対談:小山実稚恵)


どれもとても面白く読んだのだが、とくによかったのが、アルカンとフジ子ヘミングと最後のジャズの話。アルカンという人はちょっと変わった人で曲もひとくせあるらしいことを知って、もう一度聴いてみようと思った。フジ子ヘミングも聴いたことがないのに何となく敬遠?していたので、一度は聴いてみようと思う。

「サイトウ・キネン・フェスティバル―ジャズ勉強会」の話はまったく知らない世界のことなので、とても面白かった。小澤征爾がジャズ好きで、大西順子さん(ジャズ・ピアニスト)の引退を引き止めて、フィスティバルに引っ張っていったところなどは、とてもいい話である。


それから、「ラ・フォル・ジュルネに出演してみたら」は、私が初めてラ・フォル・ジュルネを聴きに行って、しかもいづみこさんのすぐ近くの席でカサールさんのマスタークラスを一緒に?聞いたときの話なので、興味深かった。残念ながら、いづみこさんの演奏は聴いてないのだが…。




最後の「日本人がショパン・コンクールで優勝できない理由」も、コンクールの裏側(採点方法など)も分かってとても興味深かった。


読みながらメモった箇所をいくつかあげておく。

「ポリーニは、立方体の人だ…(ポリーニの父はイタリアを代表する建築家)…、彼の演奏は、いうなれば音とリズムで時空に組み上げた建築だ。」

「そして彼(ポリーニ)の建築物は、録音でも録画でもなく、会場の鳴り響く空間に身を置いて初めて体感できるのだ。」


(内田光子の弾くウェーベルン『変奏曲』について)

「…ウェーベルンは、シェーンベルクが考案した十二音技法を推し進めた作曲家…、徹底的に私情を排した手法で書かれている。そのために…無機的な音楽のように弾かれることが多い。」

「しかし、…(内田光子により)展開されたのは、優れて有機的な音楽だった。小節上の区切りよりは、音楽的なフレーズ感を大切にしたアプローチ。…鋭角的なリズムの間もなく、ふわっとやさしく弾かれる。こんなに身近なウェーベルンを聴くのははじめてだった。」


「フジ子のピアノには、そうした文法上の誤りがほとんどないのである。」

(※音楽の「語法」という言い方が少し理解できた。「導音の緊張感と主音の安堵感」という機能を十分に使わないと、「ありがとうございました」と言うところが「ございまし」に続いて「た!」だけ強く言うような変なしゃべり方=演奏になる、という話が分かりやすかった。)


読み物としても面白かったのだが、内田光子(のシューベルトやウェーベルン)やアルカンをあらためて聴いてみようと思わせてくれたり、フジ子ヘミングもちゃんと聴いてみようと思わせてくれた本であった。



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