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2021年3月11日木曜日

メンデルスゾーンの謎:MWV番号?、未出版のピアノ曲も沢山?

そろそろ次の選曲を考え始めようと思って、これまでに弾いたことのない作曲家としてメンデルスゾーンでもやってみようかと調べ始めた。

ところが、色々聴いたり調べたりしているうちに、迷路にでも迷い込んだ気分になってしまった。実は、あまり研究が進んでいない作曲家らしいということが分かってきた。




最初に、候補曲のあたりを付けようと思って、「ピアノ曲全集」と銘打った CD を Spotify で聴き始めた。まずは、冒頭 10秒ほど聴いて候補を選んで、気に入った曲は最後まで聴く…という感じで。それでも、CD 10枚分あるので結構時間がかかった…(^^;)。

聴いたのはコレ(↓)。メンデルスゾーンを得意とするイタリアのピアニスト、ロベルト・プロセッダ(Roberto Prosseda、1975~)が、2005年から始めて 2017年で完結させたもの。59曲の世界初録音も含んでいる。


ところが、いくつか気に入ったものの楽譜を見ようと、いつものように IMSLP で探すのだが、載ってないものが多い。

例えば、このヘ短調のソナタ(↓)がちょっといいな♪ と思ったのだが、楽譜がない…。



ちなみに、上の 10枚組の CD は YouTube にあることが後で分かった。

Mendelssohn: Complete Piano Works(プレイリスト)


この辺りで「何かおかしいな?」という感じがしてきた。

まず、10枚組の CD には随分と沢山の曲が入っている。メンデルスゾーンってそんなに沢山のピアノ曲があったっけ? 元々、そんなに聴く作曲家ではないが、それにしても…。

で、IMSLP に楽譜が少ないことで、さらに頭の中の「?」が増えていく…。


とりあえず、PTNA ピアノ曲事典に当たってみることにした。メンデルスゾーンの項は解説が実に充実していて、これがとても役に立った…(^^)♪ それによると、

メンデルスゾーンは38年の生涯において 750曲以上作曲したのだが、生前に出版されたのは op.72 まで(op.19 は重複)。没後 op.73〜121 は遺族や知人によって出版された。

1870年代に編纂された「旧メンデルスゾーン全集」には、Op.番号のない小品も含め 156曲が収められている。つい最近まで、これがメンデルスゾーンの「全」作品であった。

大雑把にいうと、約 750曲のうち出版されているのは 156曲+α ということになる。


で、実は現在「新メンデルスゾーン全集」(LMA:ライプツィヒ版メンデルスゾーン全集)の編纂が進められていて、没後200年の2047年には完結する予定…とのこと。

その一環として「メンデルスゾーン作品総目録 Mendelssohn Werkverzeichnis」(MWV)が、生誕200年の2009年に出版され、計 778曲の作品データが収められている。

ここで、上の CD の曲名についていた「MWV U 23」等の謎が解けた ♪ 「新全集」では、メンデルスゾーンのすべての作品にこの MWV番号が振られることになっているようだ。

PTNA ピアノ曲事典では "MWV" が省略されて「U番号」が付けられている。


この MWV を調べていて見つけたのが、江端伸昭氏の「紹介と検証 : メンデルスゾーン作品目録(MWV) : われわれはMWVをどう使うべきか」という論文。下記に PDF がある。



MWV 番号では、楽曲を声楽曲(A〜K)、舞台作品(L〜M)、管弦楽曲(N〜P)、室内楽曲(Q〜R)、ピアノ曲(S〜U)、オルガン曲(V〜W)、その他(X〜Z)の 26ジャンルに分類している。ピアノ曲ではこうなっている(↓)。

S:2台のためのピアノ作品(2曲)
T:4手のためのピアノ作品(4曲)
U:ピアノ独奏曲(199曲)

独奏曲のうち生前に出版されたもの(たぶん「旧全集」に含まれるもの)は、作品番号付き 73曲、作品番号なし 9曲のみ。117曲が生前未出版ということになる。


なぜ、こんなにも有名な作曲家の研究や全集の編纂が遅れているか?…という疑問にも、江端伸昭氏の論文は答えてくれている。主に二つの理由がある。

一つは、彼がユダヤ人であったため、没後様々な攻撃を受け、長期にわたって研究されず、そのため貴重な資料なども散逸したり行方不明になっているということ。

もう一つは、メンデルスゾーンが作曲するときに「公の作品」と「プライベート作品」を分けて考えていたため。

前者は出版されて公の場で演奏されることを前提として作られたもの。後者は公表を前提とせず、家族や友人のために作られたもの。とくに歌曲やピアノ曲には生前未出版の「プライベート作品」が多数あるため、散逸したものが多いと考えられている。


…というところで、何となく全体像が見えてきたような気がする。

なのだが、ここで大きな問題に気がついた。"Complete Piano Works" の CD で選曲しても、楽譜が入手できないものが結構ありそうだ…ということ。せっかくお気に入りの曲を見つけても、練習することができない…(^^;)。

PTNA の解説によると、「現時点で最も使い勝手がよく、信頼が置ける楽譜は…ヘンレ版3巻」だそうだ。ヘンレ社から出ている 3巻はこの 3つ(↓)。ちょっと高いので買うかどうか分からないが、念のために載せておく…(^^;)。


メンデルスゾーン: ピアノ作品集 第1巻/ヘンレ社/ピアノ・ソロ

収録曲
  • Capriccio op. 5
  • Sonata E major op. 6
  • Perpetuum mobile op. 119
  • Scherzo MWV U 54 (op. 119 in a different version)
  • Seven Character Pieces op. 7
  • Sonata B flat major op. 106
  • Scherzo b minor MWV U 69
  • Rondo capriccioso op. 14
  • Fantasy E major op. 15 
  • Trois Fantaisies ou Caprices op. 16
  • Fantasy op. 28
  • 3 Preludes op. 104, 1
  • 3 Etudes op. 104, 2 

メンデルスゾーン: ピアノ作品集 第2巻/ヘンレ社/ピアノ・ソロ

収録曲
  • Trois Caprices op. 33
  • Scherzo a capriccio
  • Album Leave op. 117
  • 6 Preludes and Fugues op. 35
  • Andante – Allegro op. 118
  • Andante cantabile – Presto agitato
  • Praeludium and Fuga e minor
  • Variations sérieuses op. 54
  • Gondola Song A major
  • Andante con Variazioni E flat major op. 82
  • Andante con Variazioni B flat major op. 83
  • Children's Pieces op. 72

メンデルスゾーン: 無言歌集/ヘンレ社/原典版

収録曲
  • 第1集 Op.19: 甘い思い出/後悔/狩人の歌/ないしょの話(信頼)/眠れぬままに/ヴェネツィアの舟歌第1 ト短調
  • 第2集 Op.30: 瞑想/安らぎもなく/慰め/道に迷った人/小川/ヴェネツィアの舟歌第2 嬰ヘ短調
  • 第3集 Op.38: 夕星/失われた幸福/詩人の竪琴/希望/情熱/デュエット
  • 第4集 Op.53: 海辺で/浮き雲/胸さわぎ/心の悲しみ/民謡/勝利の歌
  • 第5集 Op.62: 五月のそよ風/出発/葬送行進曲/朝の歌/ヴェネツィアの舟歌第3 イ短調/春の歌
  • 第6集 Op.67: 瞑想/失われた幻影/巡礼の歌/紡ぎ歌/羊飼いの嘆き/子守歌
  • 第7集 Op.85: 夢/別れ/うわ言/悲歌/帰還/旅人の歌
  • 第8集 Op.102: 寄るべなく/追憶/タランテラ/そよぐ風/子供のための小品(楽しい農夫)/信仰


まぁ、何となく分かってきたような気はするが、選曲はちょっと大変かも…。「無言歌」の中から選ぶというのが無難なのだろうが、今ひとつピンとくる曲がない…(^^;)。

結局のところ、楽譜が入手できる範囲で選ぶしかないのだろう…。


2 件のコメント:

  1. メンデルスゾーンのMWVについて検索していて辿り着きました。細やかな情報、大変参考になります。そして背景の写真はWigmore Hallですね!?好きなホールなので、記事の情報に加えて、親近感を覚えました。どうもありがとうございます。

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  2. こんにちは ♪
    お役に立ててうれしいです…(^^)。
    もともと知りたがり…というか、疑問に思ったことを放置できないタチなので、ネット情報を探索しているうちに、やや長文の記事になってしまいました…(^^;)。
    Wigmore Hall、こじんまりしていい感じですよね ♪ 一度は座席に座ってみたいと思うのですが…。

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