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2019年2月12日火曜日

クラシック音楽(オーケストラ)のグラミー賞に光明?

昨日書いた《グラミー賞にノミネートされたピアニストは…》という記事、実はこの英文記事(↓ワシントンポスト)を読んでいる途中で書いたものだ。本当はこの記事がなかなか良かったので紹介しようと思っていたが、長文なので間に合わず…(^^;)。

✏️Orchestras don’t get record deals any more. The Grammys show a silver lining.

というわけで、今日は1日半かけて読んで、概要を意訳してみた…。



グラミー賞はクラシック音楽にふさわしくない?


これまで多くの人が、グラミー賞はクラシック音楽にふさわしくない、気まぐれな人気投票でしかない、と言ってきた。

問題の本質は、グラミー賞がコンサートホールで起こっていることを何も反映してこなかったことにある。

オーケストラシーズン(ホール)のプログラムはモーツァルトやベートーヴェンなど旧来のレパートリーが主体。一方、録音は現代の好みやトレンドをより反映している。

グラミー賞「最優秀オーケストラ・パフォーマンス部門」の受賞回数が多いのは、マーラー、バルトーク、ショスタコーヴィッチ、ストラヴィンスキー、ドビュッシー等だ。

CD販売量が減少し、メジャーレーベルの重要性が低下するにつれ、小さなレーベルやあまり知られてない作品の録音が増え、このホールと録音のギャップはますます広がった。


変化の兆し:ライヴ録音の増加


ところが、この状況にも変化の兆しがある。最近、ライヴのオーケストラ演奏がグラミー賞を受賞することが増えてきているのだ。

その背景には、最近のオーケストラの録音がほとんどライヴになり、しかもオーケストラ自身のレーベルからCDが出されることが増えたことがある。

レコーディングはオーケストラにとって欠かせないものになってきている。そして、録音は、前述のとおりスタンダードなプログラムよりも特徴のあるレパートリーをフィーチャーする傾向がある。

このことが、ゆっくりではあるが確実にオーケストラのレパートリーを広げつつある。


シアトル交響楽団の例


シアトル交響楽団の新しい音楽監督、Krishna Thiagarajan氏は「聴衆にあまり聴かれてないような作品を録音したい」と言う。

今回、自身のレーベルから 2つの録音がノミネートされている。20世紀のデンマークの作曲家 Carl Nielsen の2つの交響曲と、59歳のアメリカ人作曲家 Aaron Jay Kernis に委嘱したヴァイオリン協奏曲である。

(追記)後者の "KERNIS: VIOLIN CONCERTO" は「最優秀クラシック・インストゥルメンタル(ソロ)」「最優秀コンテンポラリー・クラシック・コンポジション」の両方にノミネートされ、ともにグラミー賞を獲得している。


変化するホールと聴衆


実はレパートリーだけでなく、聴衆も録音とホールとでは違っていた。コンサートには女性が多く、録音したものを買うのは男性中心だった。

ところが、メジャーレーベルがスタジオ録音をあまりしなくなり、オーケストラ自身でレコーディングをするようになった結果、この差は縮まりつつある。

さらに、最近ではオーケストラが自らのアーカイヴのために使う録音機材も、プロレベルの録音をリリースするのに十分なものになっている。

近い将来、ライヴ演奏を聴いた客が、ホールを出たあとに聴いたばかりの演奏をダウンロードするような時代が来るだろう。そうすると、ホールの聴衆と録音を聴く層がかなり重なりあってくる。


ライヴ録音の利点


オーケストラにとってライヴ録音には利点が多い。自分で制作までできるオーケストラは少数かもしれないが、何を録音するかは自ら選ぶことができる。

今回「最優秀オーケストラ・パフォーマンス部門」でノミネートされた5つの録音のうち、3つがオーケストラ自身のレーベル(Seattle、Pittsburgh、San Francisco)である。

あとの2つも、コンサートを録音した Naxos のアメリカ・クラシック音楽シリーズと、レーベルはメジャーの Deutsche Grammophon だが内容はオーケストラ自身がプロデュースしたライヴ録音だ。

ライヴ録音はオーケストラにとっても、より綿密な準備・練習、集中力、ほどよいプレッシャーなど良い影響をもたらす。


ナッシュビル交響楽団と Naxos


ナッシュビル交響楽団の音楽監督 Alan D. Valentine によると、Naxos が20年前に「未録音のアメリカ音楽に焦点を当てたシリーズ化」を持ちかけた最初のオーケストラの一つがナッシュビル交響楽団だったそうだ。

まず20世紀の作曲家 Howard Hanson や Charles Ives、そして存命中の作曲家 Joan Tower、Michael Daugherty、Jennifer Higdon などを録音し、これまでに13のグラミー賞を受賞している。

Valentine はこう付け加える。「現代アメリカ音楽へのコミットメントは、我々により若い層のより多様化した聴衆をもたらした。文句を言う人もいるが、ほとんどの人は声援を送ってくれる。」


レコーディングの影響


Naxos のアメリカ・クラシック音楽シリーズは、レコーディング業界がいかにオーケストラのレパートリーに影響を与えうるかのいい見本である。

これまでのリリースは450を超え、23のグラミー賞を勝ち取っている。また、米国の多くのオーケストラの変わった趣向のプログラム(レパートリー)も支援している。

オーケストラはグラミー賞のために録音しているわけではないことは確かだが、グラミー賞はお金と注目をもたらす。それが新しい音楽を録音するインセンティブになる。そして「最優秀コンテンポラリー・クラシック・コンポジション」部門の存在も大きい。


変化は緩やかに


残念ながら、レコーディングの支援なくしては、風変わりなプログラムのチケットを売ることは相変わらず難しい

例えば、Washington Metropolitan Philharmonic という小さなセミプロの地方オーケストラは女性作曲家特集を組んだが、売り上げはそれほど伸びたわけではなかった。

目新しいレパートリーをプログラムに入れるにはお金もかかる。スコアやパート譜を探しだし、高額な楽譜の購入やレンタルをする必要もある。

自らレコーディングや制作を行い、独自レーベルで20の録音を出し、John Luther Adams の “Become Ocean” と Henri Dutilleux の作品でグラミー賞を獲っているシアトル交響楽団と比べれば、まだまだの状況だ。

しかし、シアトル交響楽団の音楽監督、Krishna Thiagarajan氏はこう言っている。

「伝統的ではない出し物(レパートリー)の聴衆も次第に増えている。効果が出始めるには何年かかかるだろうが…。そして、グラミーという人気コンテストは実際その助けになるだろう」



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