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2018年4月18日水曜日

『ティンパニストかく語りき』読書感想文

ピアノ以外の楽器奏者の話というのは意外と面白い。以前読んだゲルハルト・マンテルというチェロ奏者の書いた『楽譜を読むチカラ』という本がとても面白くて役に立った。

《7分で読めるピアノの本(7):チェロと室内楽からピアノへのアドバイス》

なので、図書館で『ティンパニストかく語りき』という本を見つけたときは躊躇なく借りてしまった。そして、この本もなかなか面白かった。著者は新日本フィルハーモニー交響楽団の首席ティンパニ奏者である近藤高顯氏。





そもそも、ティンパニについてはオーケストラの中で後ろの方にいて、打楽器の中では一番活躍していそうだなぁ…くらいしか知らないので、初めて聞く話も多く面白かった。

さらに、ティンパニストから見た指揮者やオーケストラの話なども興味深いことがたくさんあった。その一つひとつをご紹介する訳にも行かないので、今回は思いつくままの自由感想文みたいなことにしようと思う。


"巧い奏者"とは…視覚的に魅力を感じる演奏家が多い。"無駄な動き"は良い響きや良い演奏の妨げにしかならず…

これは、姿勢や叩き方によって音が大きく変わるティンパニでは「ごもっとも」な話だと思うのだが、ピアノでも同じことが言えそうだと思った。

姿勢や腕から指までの動きに「視覚的に魅力を感じる」ピアニストもいるし、その逆のピアニストもいる。体幹の姿勢とか重心とか、大事だとは分かっていても忘れがちだ。

ティンパニのレッスン室には、「自分自身の演奏姿勢をいつもチェックできるように全身大の大きな鏡が3枚置かれて」いたりするそうだ。


そういえば、最近リサイタルを聴いて感激したピリス さんの動きは、それ自体がすごいと思った。(→《ピリス さんの名演奏が生まれる所に居合わせた幸せ ♪》

小柄なピリス さんは広い音域を駆使するベートーヴェンのソナタを、重心を移動しながら実にダイナミックな動きで弾き切っていた。動きは大きいが、無駄はまったく感じられなかった。


どの楽器でも同じだが、音や響きに対するイメージを持たずにどんなハイテクニックを習得しても、それは実を結ばない

これはピアノもまったく同じだと思う。ただ、イメージ(私の場合はプロのピアニストの演奏イメージが多いが…)を持てたとしても、それを実際の音にするテクニックは私のような素人にはとても難しいのだが…(^^;)。

それでも、イメージを持ち続けることはとても大事だと思う。


彼ら(BPO打楽器奏者)は『"点"で合わせる』ということをしない

これは一番「そうなんだ〜」と思ったこと。BPO(ベルリンフィル)のメンバーは打楽器奏者も含めて、拍を「点で合わせる」ようなことはまったくしないそうだ。それでも、音楽としてはピタッと合うらしいのだ。

「イチと〜ニィと〜」と数えるのが当たり前と思っていた私には驚きだった。

それは、指揮者のやり方もそうで、中には拍がほとんど分からない振り方をする指揮者もいるとか。あまり極端だと、楽団員が困ったりすることもあるようだが…。

では、どうするのか?

私たち(日本人?)が教わっていたように"点"で合わせるのではなく、音楽の"呼吸とフレーズ"、そしてBPOのお家芸でもある"うねり"をどのように感じながらプレイするか、それが彼らのやり方だった

音楽の「呼吸とフレーズ」「うねり」で合わせる、と聞くと何だか音楽が活き活きとしたものになりそうな気がする。日本のオーケストラがときに物足りない理由の一つ…?


その他、ティンパニってそうだったのか…みたいなことをあげてみると…。

ティンパニというのは「縁の下の力持ち」的な楽器と思っていたのだが、実は「ベートーヴェンもブラームスも楽曲の骨組みをティンパニという楽器に担わせた代表的な作曲家」だそうで、管弦楽法の中ではけっこう重要な位置を占めている、とのこと。

また、「第二の指揮者」と言われることもあって、ティンパニが主導権をとったり、テンポを決めたりする場面も多いらしいのだ。指揮者によっては、そういう部分では指揮するのをやめてティンパニストに任せたり…というのもあるらしい。


ティンパニにも当然ブランドがあって、「ティンパニのストラディヴァリウス」と呼ばれるのは「ギュンター・リンガー」というものらしい。これは現在は作られてない。

現在作られているものでは、レフィーマ社の「エーネルト・ティンパニ」(↓)というのが有名らしい。ちなみに、近藤高顯さんのティンパニはこれを開発した故カール=ハインツ・エーネルト氏を訪ね直接注文して作ってもらったというもの。




また、ティンパニの並べ方には2種類あるとのこと。アメリカ式ではピアノなどと同じで右に行くほど高い音になっているが、ドイツ式はその逆。近藤高顯さんの場合、師匠がベルリンフィルのフォーグラー先生なのでドイツ式(ジャーマン・スタイル)。

また、音の高さも曲の途中で変えることをやるらしいのだが、ティンパニの構造によってペダルやハンドルで変えやすさとかも違っているようだ。

あと、ティンパニストというのは打楽器奏者兼任というのが多いようで、とくに若い頃は大太鼓からトライアングルから何でもできないといけないらしい。首席ティンパニストとかになると、さすがにティンパニだけだとは思うのだが。


…と、思いもかけず長文になってきて疲れてしまったので、ティンパニストからみたいろんな指揮者の面白いエピソード(カラヤンの振り違い事件など)に興味のある方はこの本をどうぞ…(^^;)。

『ティンパニストかく語りき』
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