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2015年5月4日月曜日

LFJ2015:ピアノ・マスタークラス:デュティユーのソナタ

LFJ(ラ・フォル・ジュルネ)の初日、ピアノのマスタークラスに参加したので、その報告。講師はエマニュエル・シュトロッセ。曲はデュティユーのソナタ 第3楽章「コラールと変奏」。



エマニュエル・シュトロッセはストラスブール出身のピアニスト。パリ国立音楽院にてJ-C.ペヌティエ、C.イヴァルディ、M.J.ピリスらに師事。フィレンツェ国際室内楽コンクール、クララ・ハスキル・コンクール入賞。C.デゼールとのデュオで人気を博すなど、LFJ常連となっている。


生徒さんの演奏

聴いたときの第一印象は「うるさい」。技術的にはかなりレベルが高い人のようだが、弾き方の問題なのか、一生懸命なのは見ていて分かるのだが音楽が伝わってこない。聴き覚えのない曲だが、直感的に「こんな曲ではないのでは?」と思った。

物理的な音量としてはメリハリがつけられているのだが、 p の部分(高音が綺麗に響くはずのフレーズなど)もなぜかうるさく感じた。

これについて、カミさん(元音大生)の説は、緊張で硬くなっていたのではないか、技術はありそうだし指も回っていたので…、ということであった。たしかに、レッスンでは先生の指摘にすぐ対応できて、音もだんだん綺麗になっていったので、そうだったのかも知れない。


先生の指摘

さて、演奏が終わっていよいよレッスン。「素晴らしい演奏でした」というお褒めの言葉に続いて、的確な指摘が次々と繰り出される。私自身が理解できて参考になったところをいくつか書いてみる(順不同)。

一番大事だと思った指摘は、どういう曲であるかという理解の仕方。

非常に「オーケストラ的」な曲なので、指揮者になったつもりで、各パートやフレーズがどの楽器をイメージしたものか考える必要がある。そして、ドビュッシーの後期の作品のような音が求められ、センチメンタルになりすぎない(感情込めすぎない、フレージングしすぎない)ように、ということ。

その理解をもとに、自分なりのイメージを持ちなさい、何かを表現する意思を持ちなさい。そして、それらを表現するための音を「自分で」探しなさい、それが一番重要なことです。(と言っていたと思う…)


それぞれの箇所で、表現方法が楽器の種類やその奏法になぞらえて説明されたのは、とても分かりやすかった。

例えば冒頭。左手の重低音和音はオルガンのように、深くて豊かな音量を朗々と響かせる。一方、右手は硬質な鐘のような響きが放たれるように。それぞれに弾き方も変える必要がある。左手は弾力を持って手はしなやかに弾む、右手は手を固めたままで強く弾く。

少し行ったところの、左手だけのスタカートのフレーズでは「うるさすぎずに、リズム」! 音というよりアタックによるリズムのみで表現する。例えば、コントラバスのピチカートのように、あるいは管楽器のトゥ・トゥと短く区切る吹き方のように。ジャズっぽく。

他にも、トロンボーンのようにとか、ハープのようにとか…。


それから、いくつかの箇所で「しーっ!」(もっと音をひそめて)という指摘があった。最初に聴いた印象と合っていたので少し嬉しかった。

音を聴き手に届けるというより、聴き手が耳をそばだててこちら(演奏者)側に寄ってくる(惹きつけられる)ようにとか、もっと p でこらえてとかいう説明は、とても分かりやすく説得力があった。


私の感想

まず、シュトロッセ先生の表情豊かな説明は楽しめた。楽器の真似が上手い。音のイメージを声・歌と身振り手振りで表現するのが実に的確だ。見ていて面白いのだが、分かりやすくもある。

それから、いつものことではあるが、先生が弾いてみせる音が生徒さんの音とまったく違う響きがするのには、本当に驚かされる。今回は冒頭の「オルガンと鐘」の対比だけだったが、もう少し聴きたかった。


今回、考えさせられたのは「小さな音」の出し方・表現の仕方、のようなこと。音量は小さいのにうるさく感じることもあるのだ、という経験。 p とか pp とかは、単なる「音量」だけではない何かがあるのだろう。「音質」とか「アーティキュレーション」(タッチ?)とか…。

それと「聴こえなくてもいい」=「聴き手から近寄ってくる」弾き方というのもある、というのも面白いと思った。


ラ・フォル・ジュルネのマスタークラスを聞くのは3回目だが、今回初めて曲の最後まで行った。シュトロッセ先生が慣れているせいもあるのだろうが、聞く方としてはやはり最後まで聞きたい。そういう意味でも、今回はとても満足度の高いマスタークラスであった。(生徒さんも上手だったし、選曲も良かったし…)



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