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2017年11月2日木曜日

名ピアニストたちのインタビュー「音友」11月号から

「音楽の友」11月号の特集「世界の名ピアニストたちの十八番」に惹かれて、久しぶりに雑誌を買った。

この特集は、7人のピアニスト(ペライア、キーシン、ツィメルマン、トリフォノフ、エマール、フレイレ、仲道郁代)のインタビュー記事と、その間を埋める4つの企画記事?から構成されている。面白かったのはインタビュー記事、とくにツィメルマンのもの。





🎼マレイ・ペライア

昨年秋の来日時のインタビューなので、そのときのプログラム「ハイドン、モーツァルト、ブラームス、ベートーヴェン」について…。

ペライア自身はベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」を中心において、ベートーヴェンに影響を与えたモーツァルトとハイドンを前に、ベートーヴェンの影響を受けたブラームスを後にしたかった、と語っている。実際の演奏会ではベートーヴェンが最後になったのだが、その理由については何も言ってない。

そのあとは「ハンマークラヴィーア」について、その難しさとか解釈とかの話になる…。私の文章力では紹介しきれないので、興味のある方は元の記事をどうぞ…(^^;)。


ベートーヴェンの指示した速すぎるメトロノーム記号(2分音符=138)については、ディテールが聴こえるテンポで弾くと言っているが、まぁそうだろう。ちなみに、シュナーベルは指定の速さに近いテンポで弾いているらしい。その演奏についてペライアは「説得力のある演奏でしたが、ディテールが聴こえない(好きだけれども…)」と微妙な感想。

ペライアは、ヘンレ版のベートーヴェンのピアノソナタを校訂中(指使いも)だそうだ。この時点で10曲の楽譜を校訂していると言っているが、ヘンレ社のサイトで "beethoven piano sonata Perahia" と検索すると13件がヒットして、うち3つが「出版準備中」とあるので、すこし進んでいるようだ。


🎼エフゲニー・キーシン

キーシンもベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」について語っている。2018年に4年ぶりに来日するが、そのとき(11月)のプログラムが「ハンマークラヴィーア」とラフマニノフの「前奏曲」ということで…。

またしてもメトロノーム記号の話だが、いろんな例を出して「難しい」と言っている。

「作曲家の自作自演でも指定を守ってない」「シューマンは、適切なメトロノームのテンポを決めることは非常に難しいと言っている」「私(キーシン)が作曲した時につけたメトロノーム記号は実際の演奏を聴くと間違いだったことに気づくことがある」など…。


(私見ですが…)このあたり、インタビューする人にちょっと文句を言いたい気分になる。「2分音符=138」が速すぎることはすでにみんな分かっていて、指定通りに弾いているピアニストなどほとんどいないし、上のペライアのインタビュアー(真嶋雄大氏)によると、2分音符=76(バックハウス)〜116(ポリーニ)とのこと。こんなことに貴重な時間を割くより、もっと中身のある質問をしてほしい…。

なお、キーシンはベートーヴェン生誕250年の2020年には、ベートーヴェンのピアノソナタ全曲を弾くことを予定しているそうだ。ちょっと期待したい…(^^)♪


🎼クリスティアン・ツィメルマン

今年9月に、ソロ・アルバムとしてはドビュッシー前奏曲集以来23年ぶり!に出したCDが『シューベルト: ピアノソナタ 第20番・第21番』というツィメルマンへのインタビュー。



このCDの録音(新潟県柏崎市文化会館アルフォーレ)にまつわるいい話も出ているが、下記に詳しいのでこちらをどうぞ…(^^)。

✏️アルフォーレで録音された現代最高のピアニスト、クリスチャン・ツィメルマン25年振りのソロ・アルバム発売のお知らせ
※追記@2023/09/24:リンク切れ


もともとツィメルマンは生の演奏を大事にする。「私は常に動いているのです。自分にとって録音というものが難しいと感じる理由はそこにあります」と言い、「私にとって音楽とは『音』ではなく、『時間』だからです」とも…。

たしかに、録音された「音だけの音楽」と「生の演奏の音楽」とは別のものかもしれない。ツィメルマンの言うとおり、18〜19世紀の「聴衆には音だけの体験というものは存在せず、演奏する芸術家のパーソナリティが常にそこにあった」わけだから…。


「クラシック音楽市場」が作り上げる「イメージ」(ラベル)に対しても、ツィメルマンは違和感を表明している。

この『イメージ』というのは、アーティスト自身が作ったものではなく、『市場』が誤った情報によって作り上げるものなのです。私はこのような不信と常に闘わなければなりませんでした。

ショパンコンクールで優勝したピアニストがショパンばかり弾く(弾かされる?)という状況はありがちだが(とくに日本で?)、ピアニスト本人にとっても聴衆にとっても、必ずしも幸福なことではないと思うのだが…。


シューベルトの「最後の2つのソナタ」について面白いことを言っている。

「晩年の作品」であることに間違いはないのだが、享年31歳のシューベルトは死の直前にも体力的には元気だったらしい。ツィメルマンの言葉はうなずける。「一人の若い作曲家が実験とユーモアの精神をもって、未来を見据えて書いた作品群なのです。


🎼その他

「その他」としたのは、そのピアニストに対する評価が小さいからではなく、この特集記事の内容があまり濃くなかったためである。それぞれひと言だけ引用してみる。

ダニール・トリフォノフ

常に自分に挑戦することが大切だと思いレパートリーを広げています

ピエール=ロラン・エマール

メシアンの作品は、私にとって母国語のように自然で身近に感じられる音楽です。メシアン夫妻のもとでこの世界に子供のころから親しみ、いわば〈水源〉で学んだからでしょう

ネルソン・フレイレ

レパートリーというのは人間関係、交友関係のようなもので、くり返し弾くのは古い友人に会うようなものです

仲道郁代

私にとって、シューマンは青春と共にあった存在。憧れや見知らぬものへの不安、ときめき…


それにしても、一通り読み終わったときの率直な感想。「ピアニストたちの十八番」という特集のタイトルはちょっと違うんじゃないだろうか?

「十八番(おはこ)」というのは、もっとも得意とする曲(あるいは作曲家)ということだと思って読んだのだが、そのとき(インタビュー時)たまたまリサイタルなどで弾いていた曲になっているような…? エマールさんのメシアンはまだ分かるが、希望を言わせてもらえるなら《幼子 イエスにそそぐ20のまなざし》について聞きたかった…。

まぁ、それぞれのピアニストの面白い話が聞ければそれで満足ではあるのだけども…なんか釈然としない…(^^;)。



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