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2014年3月14日金曜日

「ピアノ・ノート」:第1章 身体と心

読書メモ: 「ピアノ・ノート」 第1章 身体と心


■1750年~現代の欧米音楽史とピアノについて

ピアノという楽器が、各時代の作曲家にとってどういうものであったかということを通して、ピアノの特性・位置づけが語られる。スコア全体を比較的均一な音で演奏できるピアノは、作曲の、それも音楽的な実験を行う楽器としてそれぞれの作曲家に活用された。

ベートーヴェンが音楽を革新し、ドビュッシーが新しい響きを生み出したことに、ピアノという楽器はなくてはならない存在であった。

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この時期の作曲家にとって作曲の道具がおもにピアノだった…。ピアノ音楽はまたとない実験的分野だったのである。

ベートーヴェンが新たな道に踏み出したとき、まずピアノ・ソナタから出発し、やがて交響曲に移り、弦楽四重奏曲でその実験を確かなものにした…。 …やがて彼は三つのピアノ・ソナタ(作品31)で新境地を開いたあと…

シューマンの作曲人生の最初の十年はほとんどピアノ音楽ばかりだったし、ドビュッシーの革命的ハーモニーの最初の試みはピアノ曲だった。シェーンベルクが無調音楽に移行した最初の作品は『三つのピアノ曲』(作品11)で…

12…音楽作品は物理的な音によって直接とらえるものではなく、抽象的なかたちが本来の姿とされていたわけだ。だから奇妙なことに、音による音楽の実現は二義的になる。


■ピアノの身体性

著者は、ピアノほど演奏者の身体(の動き)と音ないし音楽が結びついている楽器はないという。演奏するのに筋肉的・身体的努力が要求されると同時に、その響きを身体で感じることもできる、という意味で。

また、ピアニストの身振りや顔の表情に対して、わざとらしいものに対しては批判的ではあるが、一方で「身振りは演奏の一部である」とも言っている。腕などの「優雅な動き」が直接音に影響することはないと言いながらも、間接的には(例えば脱力を促進することにより)いい弾き方を導き出している可能性は否定していない。

個人的には、自然な身振りや表情は演奏に影響すると思うし、聴き手にとっても音楽表現の一部として伝わるのではないかと思う。

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音楽が音であると同時に身振りであること、そして原初的なところでダンスとつながっている…


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解釈も即興とよく似たはたらきをすると考えるべきだろう。すなわちショパンのバラードを弾くとき、その解釈は理性的アプローチであると同時に、身体の本能的筋肉反応でもありうる。

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ピアノが重要性を帯びたのはたんにその響きだけ、あるいはダイナミックスのニュアンスを表現する能力に優れているからだけではなかった。それはなによりも、ピアノが自力でスコア全体を具現化できる唯一の楽器であると同時に、演奏に演奏者の筋肉的・身体的努力のすべてが要求されるという事実のゆえだとわたしは思う。…
ピアノの危険と栄光は、ピアニストが音楽を聴かずとも、身体全体で音楽を感じとれる点にある。

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身振りと手や腕の筋肉の緊張とがフレーズの感情表現と一致するときの感覚には、抗いがたい魅力がある。…
演奏者の腕や手首の優雅な動き、ドラマチックな動きは振付の一形式に過ぎず、楽器のメカニズムに対してなんの実現効果もない。ただし、弾き方が優雅に見えれば、音は美しく聞こえるかもしれない。


■ピアノの音色の美しさの秘密

ピアノの音の出し方は、基本的には強く弾くか弱く弾くか、速く弾くか遅く弾くしかない。あとは、ピアノの構造(ハンマーなどのメカニック)が物理的に弦を打つだけである。にもかかわらず、ピアニストは実に多様な「音色」をピアノから引き出す。その秘密は「水平垂直方向のバランス」と「倍音(ペダル)の使い方」にあると著者は説明する。

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「よく歌う音」とは楽器によってではなく、ある特定の音楽フレーズに楽器をどう使うかによって決まる。…(それは)一瞬一瞬の音楽的センスに左右される。(※例:バイオリンでは一つの音符は美しくなりうる、音色が変えられる)

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(ピアノの音楽の)美しさは本質的に響きのバランスから生まれる。このバランスには垂直方向と水平方向がある。垂直方向のバランスの説明としていちばん簡単なのは、和音のなかのひとつひとつの構成音の音量だ。和音の響きは、和声や倍音の共振をどう扱うかによって豊かさがきまる。…

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ピアノの発明とともに、作曲家たちは鍵盤楽器に倍音の響きを利用しはじめた。…ショパン、シューマン、リストは、ダンパー・ペダルを(ハイドンやベートーヴェンが使ったような)特殊効果のためにではなく、音の共振を持続させるために使いはじめた。…

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響きの垂直的な美しさは水平方向から生まれる面もあるので、異なる声部の表情に富む動きを対位法的質感のなかにたどることができる。…
大切なのは、メロディやそれが織りなすアラベスクの曲線に内在する和声的意味を認識するところから生まれる響きの美しさだ。

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ハイドンやベートーヴェンはペダルを特殊効果として使い、とくにベートーヴェンはペダルを多用したときの響きと、使わないときの乾いたパッセージとの対比を大切にした。



注:緑色の文字は引用部分(数字はページ番号)、赤い文字は私が強調したもの


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