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2013年4月18日木曜日

読書メモ:ピアノを弾く手

大人になってピアノを始める場合の効率的な練習方法はないものか、と日々考えている。それで、何か「科学的練習法」のようなものがあるはずだと思って、いくつかの本を読んでみている。その中でちょっと面白い本をご紹介する。100ページちょっとの比較的薄い本だが、内容はかなり濃い、というか役に立ちそうである。





著者は酒井直隆氏。略歴によると、医学博士・工学博士で、東京女子医科大学附属青山病院整形外科に「音楽家専門外来」を開設し、音楽家の健康問題研究の第一人者として診療、講演等で活躍中の人のようだ。

なので、ピアニストの身体上の障害に関する問題意識から、あるべき「奏法」の話が書かれている。


まずはじめに、面白い、というかこれで手指を痛めた人もいるようなのでとんでもない話なのだが…。

19世紀には、ピアニスト「養成ギプス」があったという冗談のようなホントの話。手首と各指をバネでつないだ機器で、「ダクティリオン」という名前である。どんなものか見たい方は、下記の記事でイラストを見ることができる。


このほかにも、手首を鍵盤の前に取り付けたレールに固定する装置だとか、指の間を広げるための拷問器具のようなものが、たぶん真面目に発明されていたようである。


次に興味深かったのは、上記の器具にも関係するのだが、ピアノそのものの発展の経緯と「奏法」との関係である。

ピアノ以前のハープシコードは、非常に軽いタッチで弾けるものだったため、指だけで弾く奏法しかなかった。ところが「ピアノフォルテ」の発明で、キーが重くなり、それまででの奏法ではうまく弾けなくなった。

さらに19世紀は、ショパンやリストのような「ヴィルトゥオーゾ」の時代でもある。難しい曲を重いタッチが必要な最新ピアノで弾くために、「養成ギプス」的発想が出てしまったらしい。


一方で、あるべきピアノ奏法の研究も始まり、いわゆる「重量奏法」、腕や手の重さで弾く方法が考え出された。その後、「重量+力」の奏法が提案されたりするのだが、このあたりは、私にとってはやや難解であるので、興味のある方はこの本を読んでもらえればよいと思う。

どうも、重量だけでなく、ちゃんと力を使うタッチも必要だし、場合によってはほとんど指だけでの奏法もあり、ということのようである。いずれにしても「理想的な奏法」というのは興味のあるテーマであるので、自分で実験しながら、今後も考えていきたいと思っている。


最後に、とても参考になったことを二つほど。

一つは「ピアノ・テクニックの習得は、結局は脳の訓練にほかならない」ということ。身体能力や筋肉を鍛えるだけでは、やはりダメなことを再確認したしだいである。


もう一つは、ショパンの「ピアノ奏法論」の草稿が残されていることを初めて知ったのだが、その中にいいことが書いてあった。

機械的なメカニスム練習より『ピアノを自然に歌わせること』を心がけること。よく訓練されたメカニスムとは美しい音を上手にニュアンスをつけて弾けること。指は『均等』でなくてよい、その指に固有なタッチの魅力を損なわない、逆にそれを十分に活かすよう心がけるべき。

なるほど、である。ショパン大先生に「指は均等でなくてよい」と言ってもらうことは、日々「独立した均等な指」を目指していた私にとっては大きな福音である。(…のかな?)



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