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2014年3月21日金曜日

「ピアノ・ノート」:第7章 演奏スタイルと音楽様式 2/2

読書メモ: 「ピアノ・ノート」 第7章 演奏スタイルと音楽様式 2/2


ピアノ奏法は、作曲家(の意図)やその時代、楽器、聴衆等にも関係し、常に変化し続けているものである。以下、時代順にその変遷を概観した箇所を抜き書きする。(p.183~205)


■バッハ~ベートーヴェンのピアノ奏法

バッハのフーガの興味の中心はメインテーマではなく、テーマが他の声部の興味ぶかいモチーフ(それ自身、しばしばテーマから派生したもの)といかに絡み合うかだからである。

わたし個人としてはモーツァルトやハイドンの意図したスタッカートで歯切れのいい奏法のほうを好むし、フレージングに忠実であることで音楽の質が高まると思っている。しかし、だからといって新しいレガート奏法を頭から否定する気はない。モーツァルトの音楽は多様な演奏スタイルに耐えるものだからだ。

モーツァルトはペダル奏法を是認しているが、…一ヵ所もペダルをどう使うか指定をしていない。

現代のピアノでモーツァルト作品を演奏する場合の困難は、おもに高音部と低音部のバランスを見出すことによる。今日のコンサート・グランドピアノの低音部が異様に重くなっているためだ。

ベートーヴェンはモーツァルトよりレガートを多用したが、スタッカート気味で昔風のノン・レガートなタッチを用いることもよくあった。(ときおりモーツァルト的な質感や音響技法を使い続けた)


■「現代ピアニズム」のはじまり:リスト、ショパン、シューマン

現代ピアニズムはリスト、ショパン、シューマンに始まる。現代ピアノの教授法はほぼすべてこの三人、あるいはその同時代人のつくったスタイルを基礎にしている。最高の演奏にみられる流麗なピアノの響き、隣接する和音の混ざり合い、明暗の対比はみな、この三人およびその同時代人のものだ。

この三人の巨匠は多くの点で異なる。ペダルの奏法がいい例だ。

シューマンはペダルを多用し、ほとんど間断なく使った。…ペダルを踏まない乾いたサウンドはつねに特殊効果として登場し、たとえば『謝肉祭』の「オイゼビウス」のように、ふつうは特別なものを描写する。

ショパンのペダルはシューマンほど目立たず濃厚でもないが、かなり連続して使われて、とくに低音部の対位法構造のラインを強調するが、個々の和音を全開して響かせるはたらきもする。

リスト派はペダルの使用についてはずっと控えめだったと言われている。

マックス・レーガーからスクリャービンにいたる十九世紀後半の作曲家の書いたすばらしいピアノ音楽には、すでにショパンやリストに見出せるもの以上のピアノ技法はない。


ドビュッシーとラヴェル

ピアニスティックな技法にもっとも先鋭な革新をもたらしたのは、おそらく二十世紀初頭のドビュッシーであろう。彼の作品では音色の幅が広がり、明らかに静かな奏法へと向かったが、極度に暴力的なパッセージもある。ドビュッシーの静かな響きを出すためには、最小限の動きで打鍵するために、手が鍵盤にきわめて近く位置する必要がある。こうすると、音はほとんど「語りかける」ような響きになり、ハンマーの衝撃を弱めることができる。

ラヴェルの曲では、和音の中心に不協和音がクラスター(かたまり)になって隠されているが、ドビュッシーの不協和音は中心和音から離れて、鍵盤の別の場所に置かれることが多く、これによって…音域の対比効果が生まれる。


20世紀初頭のモダニズム

二十世紀初頭のモダニズムの巨匠たち、すなわちシェーンベルク、ストラヴィンスキー、ヴェーベルン、ベルクはピアノ技法の変革という点ではほとんど貢献していない。(※ピアノを使った実験的作品などは作曲しているが…)

(例外的にピアノ技法の変革に寄与した)プロコフィエフは、ピアノの乾いたパーカッシブな響きを、かつて誰も試みたことのない方法でもちいた。彼のもっとも優れた作品は、…乾いた衝撃音と繊細なリリシズムを組み合わせた初期の作品群である。独創的な新しいピアニズムを判断基準とするならば、彼の最高傑作は言うまでもなく『束の間の幻影』全二十曲であろう。

ヒンデミット、コープランド、ショスタコーヴィチなども興味深い音楽を書いたが、ピアノ技法という点では新たにつけ加えるものはない。こうした作品は大半が小品で、大きなコンサート用グランドピアノを必要とするようなものは1920年代、30年代のピアノ作品にはあまりない。


1940年代末

(チャールズ・アイヴズのクラスターと多調効果やオリヴィエ・メシアンなどの実験的試みのあと)

…1940年代末になると、ピエール・ブーレーズ、エリオット・カーター、サミュエル・バーバーのソナタによって、コンサート・グランドピアノの響きがふたたび求められるようになった。ピアノの技法に新しい革新をもたらした作曲家のうち特筆すべきは、ブーレーズカール=ハインツ・シュトックハウゼンである。

1920年以降の前衛モダニズムの巨匠たちは、18世紀、19世紀の巨匠のような人気を得られなかった。なぜモダニズムが嫌われるかを理解するには、すべての芸術分野において、モダニズムの偉大な作品がはじめて登場したとき、それらが受け容れられなかったことを知っておくとよいだろう。

「ピアノ・ノート」完■


注:緑色の文字は引用部分(数字はページ番号)、赤い文字は私が強調したもの